湖北地方でよく見かける欅普請の伏木邸は、1861年(文久年間)以前、今から
約150年前に現在地に移築された建物で、過去に一度修復工事が施された立派な古民家である。
ところが現在の葦葺屋根の維持管理が限界にきており、この際、葦葺屋根の持つ美しいスカイラインを大切に残しながら新しい素材で葺き替えることとし、それと同時に永年に亘る建物の不同沈下や建物の傾斜の建て直しと内外部の大改修という再生工事で、大変な難工事であった。この難工事を克服するには適切な技術的アドバイスを得ることのできる建築士が必要となった。
幸いにも施主の意向を十分理解してもらえる設計者・施工者との出会いがあり、三者が一体となってすばらしい成果を挙げることができた。
再生なった新素材の屋根は葦葺き屋根の美しい面影を残し、新しい時代の屋根として面目を保つことができた。
また、外部意匠にマッチした玄関廻りの改修は、よく消化されたデザインでまとめられている。
室内の玄関土間・座敷まわり・囲炉裏の居間等に見られる伝統様式のゆったりとした化粧天井をもつ住空間は、現代生活を快適に送ることのできる生活の場として見事に再生している設計技術は実に素晴らしい。
また、施主自ら解体した小屋組の中から煤竹を丁寧に磨き、内装材として各所に有効に利用されているのも再生への心意気が伺える。
“古き良き先人の遺産は常に新しい”
審査委員長 本 城 博 一
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