今城さんは都会のマンション暮らしから、自分の永住の地を安曇川沿いに朽木に向かう自然に恵まれた静かな山村を選んだ。
しかし、この地で自然を友とし、日常の暮らしの中で先ず近隣とのぬくもりのある交流を第一義と考えた。そこでわが家の住まいづくりとこの地での住まい方について4年の歳月をかけて研鑽を重ね、試行錯誤の末こだわりのある住まいづくりへの挑戦となった。
先ず第一に如何に周辺との調和を図るかということで、たまたま近くに残っていた煙草の乾燥倉を我が家の意匠のモチーフとした。建物に使用する木材はすべて地元産の杉材にこだわった。そんな時、幸いにも朽木の林業家の栗本さんとの出会いで全面的な協力を頂いた。栗本さんの朽木の山林からほとんどの杉材を伐り出すことができた。
施工も地元の棟梁にお願いし、便所の手洗いボールまで地元の陶芸家の作品というこだわりようである。 まさに地産・地消・地場の匠と陶芸家という徹底ぶりである。 『郷に入れば郷に従え』とはまさに今城さんのために用意された言葉ではないだろうか。
周辺の環境に配慮した外観の意匠と内部に一歩足を踏み入れるとそこには杉の木のぬくもりと、上品な杉の香りが漂う住空間が私たちの五感を刺激する。
今城さんのこだわりの住まいづくりという永い永いドラマが終わった。このドキュメントをテレビの電波に乗せて全国に発信したいものである。
いま、今城さんは愛する我が家への達成感と満足感、それと同時に未来への不安と期待が交錯する複雑な思いで一杯であろう。しかし、今城さんの「創造の心」はこの家と共にいつまでも受け継がれていくことだろう。
“物づくりとは、情念の音楽であり詩でもある”
審査委員長 本 城 博 一
|